“ピル以外” で月経関連症状(生理痛・PMSなど)の治療はできるの?
「ピル」とは
「ピル」とはどのようなお薬なのでしょうか?
ピルは、女性ホルモンであるエストロゲン・プロゲステロンの成分を配合したお薬のことです。「経口避妊薬」とも呼ばれています。月経関連症状がある患者さんには、「低用量ピル」や「超低用量ピル」を処方することが多いです。
「ピル」が処方されるのはこんなとき
どんな症状のある方にピルを処方することが多いでしょうか?
重い月経痛(月経困難症)や月経前症候群(PMS)、過多月経などの月経関連症状のある場合に処方することが多いです。
PMS、過多月経にはどのような症状があるのでしょうか?
「PMS (月経前症候群) 」は、生理前の身体・心の不調のことで、生理前に3〜10日ほど続くことが特徴で、生理が始まると症状が落ち着きます。「過多月経」は、経血にレバーのような血の塊(凝血塊)が混じったり、経血量が150ml以上(正常量は20〜150ml)の場合をいいます。
ピル以外の治療法
PMSや過多月経といった月経関連症状がある場合、ピル以外ではどのような治療ができるのでしょうか?
PMSの場合は、まず健康習慣を整えることが第一です。その上で、生理期間の不安定なホルモンバランスを整えるという点でピルでの治療が効果的ですが、ピル以外では漢方やそのほかのお薬を処方して様子を見ることもあります。
具体的にはどのようなお薬なのでしょうか?
患者さんそれぞれの症状によって異なります。たとえば、不眠症状がでる場合には軽い睡眠薬を処方したり、腹痛がある場合には「ロキソニン」や「カロナール」などの鎮痛剤、むくみがひどい場合や症状全般に関してまずは漢方で様子をみたいという場合には「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」「五苓散(ごれいさん)」といった漢方を処方することもあります。過去に血栓症を起こしたことがある方などピルが使えない方の月経困難症の治療には「ディナゲスト」というホルモンのお薬で治療する場合もあります。
そうなのですね。うつや不安感など、精神的な不調がみられる場合には、どんなお薬が処方されるのでしょうか?
うつっぽい症状や不安感などの精神症状が強く出る場合には、抗うつ薬の「レクサプロ」などのSSRIや抗不安薬「コンスタン」などの処方も可能です。ただし、症状が重い場合には心療内科や精神科を紹介する場合もあります。
過多月経の場合は、ピル以 外での治療は可能なのでしょうか?
中用量ピルの「プラノバール」やプロゲステロン製剤である「デュファストン」を用いてコントロールしたり、いわゆる止血剤である「トランサミン」を使用したりすることがあります。
そうなのですね!
また、過多月経に関しては「ミレーナ (いわゆる子宮内避妊リング) 」も効果的です。避妊だけでなく、月経困難症や過多月経の治療にも効果があります。一度装着すれば5年間装着したままで効果がありますし、問題がないか時折エコーで確認するだけでよいので、精神的にも、経済的にも負担が少ない治療法です。挿入時の痛みの 観点から出産経験のある方によりおすすめですが、出産経験のない方も使用できます。
ピル以外での治療はどんな人におすすめ?
“ピル以外” での治療はどんな方におすすめでしょうか?
まずはピルが飲めない方です。血圧が高い方、過度な喫煙(例:35歳以上で1日15本以上喫煙)をする方、血栓症や乳がんの既往がある方、前兆のある偏頭痛がある方などはピルを服用できません。ほかにも何項目かありますが、ピルを処方する前に医師から説明がありますので、よく確認しましょう。
また、ピルを過去に服用して副作用が強く出てしまった方も、ピル以外での治療を希望されることが多いです。ピルを飲み始めのころは、不正出血、吐き気やむくみ、頭痛、めまいなどの副作用が出ることがあります。
なるほど、ピルが服用できなかったり、身体に合わない場合もあるのですね。
はい。また、生理期間の数日間だけ腹痛や頭痛があるといった場合にも、相談の結果、ピルではなく鎮痛剤の処方にとどまることもよくあります。1ヶ月に鎮痛剤を数錠飲む程度であれば、ピルでの治療は必要ない場合もあります。ただ、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症が隠れていることもあるので婦人科で一度相談しておくことは大切です。また、痛みがひどくなり、鎮痛剤を飲む量や頻度が増えてきたり、痛みが強くて仕事や学校に行けなくなったという場合には、婦人科を受診し治療法を相談していくのがよいでしょう。
眠気・むくみといった特定の症状だけが出る場合にも、まずはピルではなく漢方やその症状に特化したお薬の処方で様子を見ることも多いです。
そうなのですね。平塚先生、ありがとうございました!
まとめ
この記事では、平塚先生に「ピル以外での月経関連症状(生理痛・PMSなど)の治療」についてお話いただきました。 ポイントをまとめると下記の通りです。
- ピルは、重い月経痛(月経困難症)や月経前症候群(PMS)、過多月経などの月経関連症状のある場合に処方されることが多い。
- 血圧が高 い方、過度な喫煙をする方、血栓症や乳がんの既往がある方はピルが飲めない。
- 症状によって異なるが、ピル以外での治療ができる場合もある。
- 「PMS」のピル以外の治療法としては、漢方や症状に合ったお薬(鎮痛剤や軽い睡眠薬など)での治療法がある。
- 「過多月経」のピル以外の治療法としては、ホルモン剤や止血剤、また「ミレーナ (いわゆる子宮内避妊リング) 」が挙げられる。
ピルは生理期間の不安定なホルモンバランスを整えてくれるため、生理痛・PMSなど月経関連症状に効果的なお薬です。しかし、ホルモン剤に抵抗がある場合や、健康上の理由からピルが服用できない場合もあります。症状に合わせてそのほかの治療も可能なため、医師と相談しながら、適切な治療を受けるようにしましょう。
日本専門医機構認定産婦人科専門医
2018年3月 東京大学医学部医学科 卒業
2022年4月 帝京大学医学部附属溝口病院 産婦人科